海外赴任前の労災保険、出張扱いのままになっていませんか
海外の拠点へ社員を送り出すときは、航空券や住居の手配と併せて、労災保険の扱いを確認してください。日本の会社から給与を払っている、辞令に「出張」と書いているという事情だけで、国内の労災保険が使えると判断するのは避けたいところです。
確認したいのは、現地で誰の指示を受けて働くのか、海外派遣者の特別加入が必要か、赴任の移動中も含めてどのような補償になるかです。出発後に書類を探すことにならないよう、人事担当者と現地の責任者で整理しておきましょう。
出張か派遣かは、期間より勤務の実態で確認する
厚生労働省は、海外出張と海外派遣を、滞在期間の長短ではなく海外での労働関係によって判断すると説明しています。国内の事業場に所属し、その指揮命令で仕事をする場合と、海外の事業場に所属して現地の指揮命令で働く場合では、労災保険の扱いが異なります。
海外出張として扱われる場合は、国内での災害と同様に労災保険給付の対象になります。一方、海外派遣とされる場合は、海外派遣者として特別加入していなければ、日本の労災保険給付を受けられません。
会社としては、辞令だけでなく、業務の指示者、所属先、仕事の内容が分かる資料も確認したいところです。区分がはっきりしないときは、出発前に労働基準監督署へ確認するよう厚生労働省も案内しています。
特別加入は、対象者と開始日まで確認する
海外派遣者の特別加入は、派遣元の事業主等が手続を行い、労働局長の承認を受ける制度です。社員が海外で働くという理由だけで、自動的に加入するわけではありません。
神奈川労働局の案内では、申請書に具体的な作業内容や派遣予定期間などを正確に記載するよう求めています。会社では、派遣する社員が申請の名簿に入っているか、実際の仕事と申請内容が一致しているか、承認された加入日がいつかを確認しておきましょう。
申請した日と補償が始まる日を同じものとして扱わず、赴任日程との関係を確かめることが大切です。赴任予定が決まった段階で、担当者と手続の進め方を相談しておくと、出発直前の確認漏れを減らせます。
赴任中の移動も、すべてが労災になるわけではない
厚生労働省の海外派遣者向け資料では、赴任途中の災害が業務災害と認められるために、満たすべき条件を示しています。
海外派遣を命じられた社員が転勤に伴う移転のため、従前の住居などから赴任先の事業場へ向かう途中であることに加え、赴任先事業主の命令による赴任で、経路・方法が合理的であることが必要です。
さらに、赴任に直接必要でない行為や恣意的な行為が原因の災害でないこと、赴任先事業主から旅費が支給されることも条件です。「会社の異動だから移動中の事故はすべて対象」とは言い切れません。
赴任の命令書、移動日程、旅費の負担先・支給記録を確認できるようにしておきましょう。私用の滞在などを日程に含める場合は、業務上の移動と区別して記録し、補償の扱いに不明点を残さないよう事前に確認することをおすすめします。
事故が起きたときの連絡先も決めておく
特別加入者の給付請求は、派遣元の団体または事業主を通じて行います。厚生労働省の資料は、派遣先の事業主の証明書などの添付や、外国語の資料には日本語訳を付けることも案内しています。
これは事故が起きてから現地任せにすればよい、という手続ではありません。国内側の窓口と現地の担当者を決め、事故の日時・場所・業務内容や受診に関する資料を、誰が集めるかまで共有しておくと対応しやすくなります。
自社で確認すること
- 辞令と現地での業務体制を照合し、所属先・指示者・仕事内容から海外出張と海外派遣の区分を確認する。
- 特別加入の申請名簿と承認書で、対象社員・業務内容・加入日が赴任計画と合っているか確認する。
- 赴任命令書・移動日程・旅費の支給記録を確認し、事故時の国内窓口と現地の資料収集担当者を決める。
海外出張か海外派遣か判断しにくい場合や、加入手続と赴任日程の整理に不安がある場合は、社会保険労務士法人エリクスへご相談ください。勤務の実態と手元の資料を確認し、出発前に検討すべき事項を整理します。
参考資料
厚生労働省「海外出張先で事故に遭った場合の労災保険」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000154493.html
神奈川労働局「労災保険の特別加入制度(海外派遣者)」
厚生労働省「特別加入制度のしおり(海外派遣者用)・補償の範囲と給付」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-7-07.pdf
(2026年10月6日確認)
