【広がる副業、変わるルール――今こそ見直したい就業規則と労務管理】
働き方の多様化が加速する現代社会において、「副業」はもはや一部の人の選択肢ではなく、誰もが関わる可能性のある働き方となっています。政府も副業・兼業を推進する方針を打ち出しており、企業にとっても個人にとっても、その扱い方を明確にしておくことが求められています。
さらに、2026年には労働基準法の改正が予定されており、副業に関するルールや管理のあり方が大きく見直される見通しです。
本記事では、副業に関する現在のルールと注意点を整理し、2026年の法改正を見据えて企業と労働者が今から備えておくべきポイントをご紹介します。
【1】副業の基本定義とは?
副業とは、本業以外で継続的に収入を得る活動を指しますが、法律上の明確な定義はありません。
◎ 一般的に副業とみなされる条件
- 営利性がある(対価を得ている)
- 継続性・反復性がある
- 本業の勤務時間外で行っている
【2】副業に該当するか?ジャンル別に見てみる
1)フリマアプリ(メルカリ等)で私物を売る
✕ 基本は副業非該当(不用品処分の範囲。継続・大量出品・仕入販売は副業扱い。)
2)ハンドメイド作品を販売(Creema、minne等)
○ 副業に該当(趣味の延長でも、継続的販売・利益目的なら副業扱い)
3)ブログ広告収入・YouTube広告・投げ銭(スパチャ)
○ 副業(所得が発生し、活動が継続していれば副業)
4)ポイントサイト・アンケートサイト
△ グレー(一定の副収入ではあるが、副業規制の対象にするかは会社による)
5)株式投資・仮想通貨・FX
✕ 一般には副業扱いされない(所得税では「雑所得」や「譲渡所得」だが、労働とは異なる)
6)ウーバーイーツ・配達副業
○ 完全に副業(時間と労力を提供し報酬を得る=明確に副業)
7)オンライン講師・ココナラでスキル販売
○ 副業(継続的なら間違いなく副業扱い)
【3】会社側の判断視点
- 企業秘密の漏洩・利益相反があるか
- 労働時間の通算管理が可能か
- 心身の健康・本業への影響があるか
- 就業規則で「報酬の有無」によって副業扱いしているか
★ ポイント:収入の有無が基準ではない場合も多い
無報酬のボランティアでも、内容によっては許可対象に含まれる企業もあります。
【4】税務・社会保険の観点
◎所得区分の違い(税務上)
収入源:雑誌ライター、講演、ブログ広告 所得区分:雑所得 確定申告:年20万円超なら確定申告対象
収入源:フリマで仕入販売 所得区分:事業所得又は雑所得 確定申告:継続性・規模により変化
収入源:不動産収入 所得区分:不動産所得 確定申告:常に申告が必要
収入源:株・仮想通貨 所得区分:譲渡所得 確定申告:利益が出れば課税対象
【5】トラブル事例から学ぶリスク
- 副業で心身を壊し、労災申請に発展(労働時間の把握が困難)
- 匿名での副業がSNSで発覚し、就業規則違反で懲戒処分
- 会社のPCで副業の作業をしていたことが発覚し、懲戒対象に
【6】副業に対する企業のスタンスは分かれる
積極的に認める⇨副業がスキル向上につながると判断。
条件付きで許可⇨届出制、業務に支障のない範囲で認める。
原則禁止⇨機密漏洩や長時間労働の懸念が強い業界(金融、製造など)に多い。
※就業規則で原則禁止としても、あくまで就業時間外についての制限まではできません。
また、法律(憲法上)でも職業選択は自由とあり、副業は禁止されておりません。
禁止にするとしても、どのような場合に禁止とするのか、適用される場合を限定的とするべきでしょう。
◇副業の線引は「報酬」×「継続性」×「本業への影響」
副業かどうかを判断するうえでは、単に「お金を得たかどうか」ではなく、
- 継続性(ライフワークか、一時的か)
- 業務への影響(健康、競合性、機密)
- 規則との整合性(就業規則に違反していないか)
という複数の軸でのバランス判断が必要です。
◇会社・労働者双方にとって大切なこと
- 副業に関するルールやガイドラインを明確にし、共有すること。
- 信頼関係のもとに、無理のない働き方を選択すること。
【7】副業の形態による対応の違いについて
副業の形態が「雇用」「非雇用」により、企業が求められる対応は異なります。
◎副業先が【雇用】(労働契約)である場合
労働者が副業先で雇用契約を結んでいる場合、労働基準法第38条に基づき、本業と副業の労働時間を通算して管理する必要があります。
- 労働契約書の内容
⇨労働条件通知書で賃金、就業時間、業務内容などを確認。 - 労働時間の通算
⇨複数事業所での労働時間は通算され、週40時間を超えると割増賃金(残業代)が発生。法定労働時間を超えないよう管理が必要。 - 社会保険、労災保険の適用
⇨条件により副業先でも健康保険・厚生年金の加入義務が発生する(「複数事業所勤務者」として届出必要)。
⇨労災は「業務ごと」に適用されるため、副業中の事故は副業先の労災で対応。 - 健康管理の強化
⇨長時間労働による健康障害を防ぐため、健康診断や面接指導などの措置を講じることが求められる。
◎副業先が【非雇用】(業務委託、請負、フリーランス等)の場合
労働者が副業先と雇用契約を結んでいない場合、労働基準法の適用はありませんが、企業として以下の対応が望まれます。
- 契約形態の明確化
⇨業務委託契約書の有無、内容(報酬、納期、成果物の取扱い等)を明文化。 - 健康管理の支援
⇨長時間労働にならないよう、労働者の健康状態を把握し、必要に応じて助言や支援を行うことが望まれる。 - 就業規則の整備
⇨副業の内容や範囲について、就業規則で明確に定め、労働者に周知することが必要。
【8】副業形態の判断と企業の留意点
副業が「雇用」か「非雇用」かの判断は、契約の形式だけでなく、実態に基づいて行う必要があります。
形式上は業務委託契約であっても、実態として使用従属性が認められる場合は、雇用契約と判断される可能性があります。
企業は以下の点に留意することが求められます。
- 契約形態の確認
⇨副業先の名称・業種、就業時間・曜日、業務内容等、必要に応じて情報提供を求める。 - 労働時間の管理
⇨副業が雇用契約である場合、労働時間の通算管理を適切に行う。 - 健康管理の徹底
⇨副業の有無にかかわらず、労働者の健康状態を把握し、必要な措置を講じる。 - 就業規則への明文化
⇨副業に関するルール(禁止・許可・届出・制裁など)を就業規則に明記し、労働者に周知する。
◇2026年 ~主な法改正予定のポイント~
副業・兼業者の割増賃金に関する労働時間通算の見直し
現在、労働者が複数の事業主のもとで働く場合、労働時間を通算して割増賃金を計算する必要があります。しかし、2026年の改正では、割増賃金の支払いにおいて労働時間の通算を不要とする方向で検討されています。ただし、労働者の健康確保の観点から、労働時間の通算自体は維持される見込みです。
連続勤務の上限規制
労働者の健康を守るため、連続勤務日数の上限が設定される予定です。具体的には、連続14日以上の勤務を禁止する規定が導入される見通しです。これにより変形休日制の見直しや、法定休日の特定義務化なども検討されています。
◇今後考慮すべき対応策
◎ 企業側の対応
- 就業規則の見直し:副業・兼業に関する規定を明確にし、労働時間の管理方法や報告義務などを定める必要があります。
- 労働時間の把握:副業・兼業者の労働時間を適切に把握し、過重労働を防ぐ体制を整備することが求められます。
- 健康管理の強化:連続勤務の上限規制に対応し、労働者の健康を守るための措置を講じる必要があります。
◎ 労働者側の対応
- 副業先との契約内容の確認:労働時間や業務内容、報酬などを明確にし、本業に支障が出ないよう調整することが重要です。
- 労働時間の自己管理:自身の労働時間を把握し、過重労働にならないよう注意する必要があります。
- 健康管理の徹底:適切な休息を取り、健康を維持することが求められます。 副業は、収入の多様化やスキル向上といったメリットをもたらす一方で、労務管理や健康面でのリスクもはらんでいます。
2026年の法改正では、こうした副業・兼業に関する労働時間の通算や健康確保の在り方が再定義され、
企業にとっても対応のアップデートが不可欠となるでしょう。
今こそ、「副業」に対する自社の方針や制度を見直し、変化に強い組織づくりを進める好機です。
社内制度の整備、副業規定の策定、就業規則の見直しなどについてご不明な点がございましたら、
社会保険労務士法人エリクスまでお気軽にお問い合わせください。