企業の信頼を守る!ハラスメント発生時の対応フロー
ハラスメントが職場で起きた場合、企業として迅速かつ適切な対応が求められます。対応を誤ると被害者から安全配慮義務違反で訴えられ、加害者から処分の不当性を争われる可能性もあります。
この記事では中小企業の人事担当者が実務でそのまま使えるよう、「何を」「どの順で」「どのように」対応すべきかをステップごとに整理します。
1. 相談を受けた際の初動対応と相談窓口担当者の心構え
まずは被害を申し出た社員(相談者)への丁寧な対応が最優先です。相談者の話をしっかり傾聴し、真摯に受け止めましょう。初期対応のポイントは次のとおりです。
- 相談者の安全とプライバシーを確保
初回の相談では相談者の心身の安全を最優先し、内容は許可なく他言しないことを伝えます。例えば「ご相談ありがとうございます。あなたの安全を最優先に配慮し、この相談内容は許可なく口外しません。申告を理由に不利益が生じることもありませんので安心してください」といった説明を行い、相談者に安心感を与えます。相談による二次被害(報復や周囲からの偏見)が起きないように十分配慮しましょう。
- 相談窓口担当者の中立・誠実な姿勢
担当者は中立的な立場で相談に臨みます。可能であればハラスメントの種類に応じて、相談者が話しやすい担当者を選ぶことも検討します(例えばセクハラの場合は同性の担当者、パワハラの場合は直属上司以外の人事担当者など)。
相談者が希望する場合はメールや電話での相談も受け付け、相談しやすい方法を提供します。いずれの場合も、相談者を責めたり評価したりせず共感と敬意をもって対応してください。相談内容が一見些細に思えても軽視せず、真剣に対応する姿勢が信頼形成につながります。
- 迅速な初動対応
ハラスメントの相談を受けたら速やかに対応を開始します。不適切な言動が続いている場合は、まずそれをただちに止める措置(例えば当事者同士を物理的・業務的に引き離す等)を検討します。初動対応の遅れは後のリスクを高めるため、できる範囲で早急に対処に着手しましょう。
その際、相談者には「これから会社として適切に対応する」旨を伝え、今後の流れを簡潔に説明すると安心につながります。
2. 相談記録の作成方法(記載すべき項目と注意点)
相談を受けたら、事実関係を正確に記録します。記録は後の調査や判断の基礎資料になるだけでなく、万一の法的トラブル時には会社が適切に対応した証拠にもなります。記録作成のポイントは次のとおりです。
- 基本情報の記載
相談を受けた日時、場所、相談者氏名・所属、対応した担当者氏名をまず記録します。誰からいつ相談があったか明確に残しましょう。
- 事案の詳細記録
相談者の訴えたハラスメントの具体的内容を可能な限り詳しく聞き取り、記録します。5W1H(いつ、どこで、誰が、誰に、何を、どのように)を意識し、時系列に沿って事実を整理しましょう。例えば「○月○日○時頃、◇◇部のA課長から△△のような発言を複数回受け、精神的苦痛を感じた」といった形で具体的に書き留めます。相談者の求める対応(どうしてほしいか)も可能であれば確認しておくと良いでしょう。
- 客観的情報や証拠の有無
相談者から提供された証拠(メールやメモ、画像、録音など)があればその内容や入手経路を記載し、原本またはコピーを保全します。また、他に目撃者や関係者がいるか、過去にも同様の被害があったかなども聞き取って記録します。
- 記録作成の注意点
記録はできるだけ相談者の言葉を忠実に残し、評価や主観は交えません。特に感情的な表現よりも、実際にあった言動を具体的に書くことが重要です。聞き取り中に誘導質問や決めつけをしないよう注意し、相談者が話したくないことは無理に聞き出さない配慮も必要です。
作成した相談記録は社内でも閲覧できる人を限定し、厳重に保管します(デジタルならパスワード管理、紙なら施錠保管)。後の事実調査や報告書作成に備え、正確で客観的な記録になるよう心がけましょう。
3. 事実確認の進め方とその留意点(ヒアリングの順序、証拠の集め方など)
相談記録をもとに、事実関係の調査(ヒアリングや証拠収集)を行います。調査は公正さと迅速さがポイントです。具体的な進め方と留意点は以下のとおりです。
- 調査計画と体制の検討
まず誰が調査を行うか決めます。可能なら人事担当者複数名で対応し、必要に応じてコンプライアンス担当や外部の専門家にも協力を仰ぎます(社内に調査委員会を設置できれば理想的です)。
調査担当者は利害関係のない中立の立場の者が望ましく、公正性の確保に留意します。調査の大まかな段取り(誰に何を確認するか、順番や方法、タイムライン)を事前に計画しましょう。
- 関係者へのヒアリング順序
基本は相談者(被害申告者)から詳しく事情を聴取し、その後、加害が疑われる相手(行為者)へ事実確認を行い、さらに必要に応じて第三者(目撃者や同僚)からも話を聞きます。相談者と行為者の主張が食い違う場合に第三者の証言を求めると、公平な判断につながります。
ただし、証拠隠滅の恐れや緊急性が高い場合には、行為者本人に伝える前に先に第三者から事実を確認するなど、順序を入れ替える配慮も必要です。ヒアリングの前には、可能な範囲で客観的資料の収集(メールやチャット履歴、録画録音、勤務記録など)を行い、それらの資料と照らし合わせながら事実関係を確認します。
- ヒアリング実施時のポイント
ヒアリングでは中立的な態度を保ちつつ、事実関係を漏れなく確認します。質問は5W1Hに沿って具体的に行い、「いつ・誰が・何を・どのように・何回」といった点を詳細に聞き取ります。決して途中で主観的な意見を述べ、相談者の落ち度を示唆するような発言(例「あなたにも非があるのでは?」)をしてはいけません。加害者とされる人へのヒアリングでは、事前に相談者の匿名希望の有無を確認し、必要なら名前を伏せて事実確認を行う、あるいは「報復行為は禁止」であることを厳重に警告して臨みます。
各人への聞き取り内容はできれば書面化(ヒアリングシートへの記入や面談記録の作成)しておき、後から誰が何を証言したか確認できるようにします。
- 証拠の収集・保存
ヒアリングと並行して、関連する客観的証拠を収集します。メールやチャットのログ、提出された書類、録音データ、監視カメラ映像など入手できるものは確認し、証拠として保存します。
証拠物の原本やデータは改ざんのないよう保管し、入手日時や入手経路も記録に残します。必要に応じてIT部門の協力を仰ぎ、ログ調査など専門的な確認も行います。
- 調査中の配慮
調査期間中、被害者と加害者が直接接触しないよう配慮します。場合によっては加害者の一時的な部署異動・自宅待機、被害者の勤務環境の変更(在宅勤務の許可や席替えなど)を検討します。関係者には調査中であることを伝えつつ、調査内容の守秘義務を周知してください。
第三者に協力を依頼する際も「この調査内容は重大な個人情報を含むので口外しないこと。漏洩した場合は懲戒処分の対象になり得る」ことを明示し、情報管理を徹底します。また、調査が長引く場合は相談者に経過を報告し、適宜不安を和らげるフォローを行いましょう。
- 事実認定のまとめ
全ての事実関係を洗い出したら、証言と証拠を総合してハラスメントの有無や程度を判断します。可能であれば調査担当者で「調査報告書」を作成し、調査の経緯(誰が調査し、期間・方法はどうだったか)、確認できた事実、当事者の主張、会社としての判断と根拠などを整理します。
この報告書は後の処分検討や社内説明の資料になるほか、万一訴訟になった場合に会社の対応を裏付ける証拠ともなるため、客観性・正確性を重視して作成します。
4. 対応方針の決定(誤解・軽微・重大の場合の判断軸)
事実調査の結果を踏まえ、会社としての対応方針(措置内容)を決定します。ここでは、ハラスメントの有無や深刻度に応じた判断軸と対応策の例を示します。
- ハラスメントに該当しない場合(誤解・事実無根など)
調査の結果、相談内容が誤解に基づくもので、ハラスメント行為が認められなかった場合でも、相談者に対しては会社として規定の手順に則り対応したことを丁寧に説明し、理解を得るようにします。相談者の認識違いであっても、決して恥をかかせたり「問題なし」と突き放したりのではなく、安心して働けるよう引き続き配慮する姿勢を示してください。具体的には、相談者と行為者双方に事実関係をフィードバックし、必要なら誤解を解消するための対話の場を設けます(ただし無理に顔合わせさせないよう配慮)。
相談者が職場に居づらくなったり報復を受けたりしないよう、上司や周囲にも慎重にフォローします。行為者とされた側には、疑われる言動をした事実がある場合は注意喚起を行い、誤解を招かないコミュニケーションを促します。双方に「今回はハラスメントとは認定しなかったが、会社として再発防止に努める」旨を伝え、今後の予防策(必要な研修受講など)を提案してもよいでしょう。
- 軽微なハラスメント行為が認められた場合
行為自体はハラスメントと評価しうるものの、比較的軽度で悪質性が低い場合は、是正措置と再発防止指導を中心に対応します。例えば加害者に対して厳重注意を行い、口頭または書面での注意・指導を実施します。
その際、具体的にどの言動が不適切であったかを説明し、本人から反省と再発防止の誓約を取ります。必要に応じて被害者への直接の謝罪をさせることも検討します(ただし被害者が望まない場合は無理強いしないこと)。
会社として、当該加害者にはハラスメント防止研修の受講を義務付け、一定期間の行動監視(上司によるフォローアップなど)を行います。人事記録として懲戒ではない「指導歴」として残し、次回同様の行為があればより厳しい処分を科すことを本人に警告しておきます。被害者に対しては、処遇の是正(評価や配置で不利が生じていれば正す)やメンタルケアの提供など、必要な支援を講じます。
- 重大なハラスメント行為が認められた場合
暴力的・継続的なパワハラや深刻なセクハラなど、悪質なハラスメントが確認された場合は、就業規則に則った懲戒処分を含む厳正な対応が必要です。行為の悪質性、被害の大きさ、故意・常習性の有無を総合的に判断し、適切な処分を決定します。
具体的な措置例としては、減給・出勤停止・降格・譴責・懲戒解雇など会社の規程で定めた処分を検討します。処分を決める際は、社内の規程や過去の類似事例との公平性を確認するとともに、必要に応じて弁護士や社労士に処分の妥当性について相談すると安心です。
懲戒処分を科す場合は、所定の手続き(懲戒委員会の開催や本人弁明の機会付与など)を踏み外さないよう留意します。また、被害者と加害者を引き離す人事措置(部署異動や配置転換)も速やかに検討します。被害者への補償やケア(必要に応じ休業や治療の補助)、社内への再発防止策の周知なども並行して計画します。
重大事案では再発防止と見せしめの観点から、処分内容を社内公表するケースもありますが(プライバシーに配慮し匿名化するなどの措置は必要)、自社の文化や法的リスクを考慮して判断してください。
なお、ハラスメント行為が犯罪に該当する可能性がある場合(暴行・強制わいせつ等)は、被害者の意思を尊重しつつ警察への相談も検討すべきです。このような重大案件では企業単独では難しい判断も多いため、早期に弁護士等の専門家と協議しながら進めることを強く推奨します。
対応方針の決定にあたっては、以上のようにケースの深刻度に応じた判断基準(誤解か、軽微か、重大か)を明確にしつつ、公平性・妥当性・再発防止の観点で総合的に検討しましょう。決定内容は社内の決裁ルートに沿って承認を得て、正式に方針を確定させます。
5. 被害者と加害者への配慮(再被害防止と納得感の醸成)
調査と対応方針の決定後は、被害者と加害者それぞれへの適切なフォローを行います。双方への配慮により、問題の根本的な解決と職場の円滑な人間関係の回復を図ります。
- 被害者への配慮
被害者には、会社として講じた対応策について可能な範囲で説明し、再発防止に向けた取り組みを伝えます。処分内容の詳細を伝えるかどうかは社内ルールにもよりますが、「加害者には然るべき処遇を行った」ことや「今後同様の被害が起きないよう措置を講じた」ことを説明し、被害者の不安を和らげます。
被害者が納得していない様子であれば、どの点に不満や不安があるのか丁寧に聞き取り、可能な限り追加対応を検討します。例えば職場環境の調整として、被害者が希望すれば部署・席替えの希望を考慮し、業務上の接点を減らす工夫をします(本来は加害者側の配置転換で対応するのが筋ですが、小規模企業で難しい場合は被害者の意向を最優先します)。また、ハラスメントによって心身に不調をきたしている場合は、産業医やカウンセラーへの相談機会を提供し、必要に応じて休業や勤務軽減などの措置も講じます。
被害者が受けた不利益(例えば評価の不当な低下や昇進昇格での不利益)があれば早急に回復させます。何より、被害者が今後職場で安心して働き続けられるよう、継続的な声かけとケアを行ってください。一定期間後に面談を実施し、体調や職場での状況を確認するなどアフターフォローも大切です。
- 加害者への配慮
加害者と認定された社員に対しても、公正な対応が必要です。処分や指導を行う際は、何が問題だったのか事実と規程に基づき具体的に伝え、本人の弁明や反省の機会も与えます。処分通知書を交付する場合は理由を明記し、本人が納得できるよう説明します(感情的な対立を避けるため、複数担当者で面談するのが望ましいです)。
処分後は、加害者に対して再発防止研修の受講や二度と繰り返さない旨の誓約書提出を求めることも有効です。また、職場復帰させる場合は配置転換や業務変更を検討し、被害者との直接接触を避ける配慮を取ります。仮に加害者が処分に納得せず不満を抱えている場合でも、上司や人事が粘り強く説得し、処分が規程に則った適正なものであることを理解させます。必要ならば始末書を書かせ、再発時は即時厳罰となる旨を警告します。逆に、調査の結果ハラスメントの事実が認められなかった場合(冤罪の場合)には、加害者とされた社員の名誉や職場環境にも配慮が必要です。誤解が解けた旨を周知し、職場で孤立されたり、不当な噂の対象になったりしないよう人事としてケアします。
いずれの場合も、当事者双方が職場で安心して働き続けられる環境を整えることが最終目標です。被害者・加害者ともに「会社が公正に対応してくれた」という納得感を持てるよう、丁寧な説明とフォローアップを心がけましょう。
6. 外部専門家(社労士・弁護士)との連携タイミングと方法
ハラスメント事案への対応においては、必要に応じて外部の専門家と連携することも重要です。中小企業では対応経験が限られるケースも多いため、深刻な事案や対応に迷うケースでは早めに専門家の知見を借りましょう。
- 連携すべきタイミング
調査段階から処分検討、再発防止策まで、各フェーズで専門家に相談可能です。例えば、事実関係の精査段階で懲戒処分の必要性や将来の紛争リスクが見えてきた場合、早期に弁護士に相談しておくと安心です。特に重大なハラスメントで被害者・加害者いずれかが法的措置を検討している様子がある場合や、会社に顧問弁護士がいない場合は迅速に弁護士と連携しましょう。
また、就業規則上の処分要件の確認や労基署等行政対応が必要なケースでは、社会保険労務士(社労士)に相談すると的確なアドバイスが得られます。被害者のメンタル不調が認められる場合には労災申請等の検討も必要ですが、その手続きも社労士がサポート可能です。
刑事事件化が視野に入る場合は警察対応に詳しい弁護士の助言が有用です。このように、事案の深刻度や法的リスクに応じて、適切なタイミングで専門家を頼る判断が求められます。
- 連携方法とポイント
外部専門家との連携方法としては、「相談(アドバイスをもらう)」「調査や面談への立ち会い依頼」「手続き代理の委託」などがあります。まずは社内対応策についてメールや電話で相談し、助言をもらうだけでも有益です。重大事案では弁護士に調査そのものを委託し、第三者的な立場で事実確認・判断を仰ぐ方法もあります(社内に調査の公平性を示す効果があります)。社労士については、就業規則の整備や行政対応に強みがあるため、再発防止策の一環として規程の見直しを依頼し、労働局への報告や是正勧告対応を相談するとよいでしょう。
専門家に依頼する際は、事実関係の資料や社内規程類を整理して提供し、スムーズに助言・支援が受けられるよう準備します。なお、外部の相談窓口(例えば提携する弁護士によるハラスメントホットライン)を設置するのも有効です。社員が直接外部専門家に相談できる体制を整えることで、早期に問題を把握でき会社として適切に対処しやすくなります。社内で抱え込まず、客観的な視点と専門知識を取り入れることが、最終的に公正で的確な問題解決につながります。
7. 再発防止策の策定(職場内研修、組織文化の改善)
個別のハラスメント事案への対応が一段落した後は、同様の問題を再発させないための職場全体へのアプローチが不可欠です。今回の事案を教訓に、会社の制度や風土を見直し、以下のような再発防止策を講じます。
- ハラスメント防止研修の実施
全社員、および管理職向けにハラスメント防止に関する研修や勉強会を定期的に開催します。研修ではハラスメントの定義や具体例、発生した場合の対処フロー、相談窓口の案内などを周知します。特に管理職には部下への適切な指導方法やパワハラ・セクハラのボーダーラインに関する教育を徹底し、部下指導とハラスメントの違いを理解させます。研修は社内で講師を立ててもよいですが、必要に応じて社労士や弁護士、外部講師を招いて専門的な講義を行うと効果的です。
定期研修のほか、eラーニングや啓発ポスターの掲示、ハラスメントに関するハンドブック配布など、継続的な啓発活動も取り入れましょう。
- 相談しやすい職場風土の醸成
再発防止のためには、社員が問題を早期に相談できる職場文化を育むことが重要です。経営トップから「ハラスメントは許さない」「何かあればすぐ相談を」といったメッセージを発信し、社内報や朝礼で幹部が表明するなど、組織としての姿勢を明確に示します。相談窓口の存在を改めて周知し、匿名相談の方法なども案内しましょう。
もし相談者が報復を受け、不利益を被ることがあれば会社が全力で守るという約束も伝え、安心して声を上げられる環境を整えます。さらに、日頃から上司・部下間の対話機会を増やし、小さな不満や悩みも聞き出せるような風通しの良いコミュニケーションを推進します。社員満足度調査や職場環境アンケートを実施し、ハラスメントの芽を早期に発見する取り組みも有効です。
- 業務環境・制度の見直し
ハラスメントが起きた背景に、長時間労働や過度のノルマ、組織体制上の問題がある場合は、職場環境そのものの改善を検討します。例えば人手不足で上司に余裕がなく部下への当たりが強くなっていたなら、増員や業務配分の見直しを図ります。セクハラが起きた部署で懇親会のあり方に問題があれば、飲み会参加の自由を明確にするなどルール化します。
また、テレワーク環境下での新たなハラスメントリスク(オンライン会議での言動等)にも注意し、必要なガイドラインを策定します。組織風土の改善には時間がかかりますが、経営層が率先してモデルとなる行動を示し、中間管理職が部下との信頼関係構築に努めることで徐々に風土は変わります。ハラスメント防止は一度きりで終わるのではなく、継続的なPDCAサイクルで職場環境をアップデートしていく意識が大切です。
- フォローアップと評価
再発防止策を導入した後、その効果を定期的に検証します。例えば研修後に理解度テストを行い、数ヶ月後にアンケートで職場の変化を確認します。
新たな相談が増えたか減ったかなどの指標も注視し、必要なら施策を見直します。ハラスメント防止の取り組みは、安全で健全な職場を作る投資です。取り組み状況や成果は社内で共有し、社員の協力に感謝しつつ更なる協力を呼びかけましょう。
厚生労働省の「パワハラ防止指針」でも、個別の被害者・加害者対応に加えて職場全体への再発防止措置を講じるよう求められています。一度ハラスメントが起きてしまったからこそ、同じ過ちを繰り返さないよう職場全体で学び、改善を続けていくことが肝要です。
8. 規程や社内ルールへの反映方法(就業規則・社内通知)
最後に、今回の対応を踏まえて社内規程やルールを整備・改定し、会社としての姿勢を明文化・周知します。日本の法律では事業主にハラスメント防止措置が義務付けられており、就業規則等に方針や対処内容を規定し労働者に周知する必要があります。自社の規程を点検し、必要な見直しを行いましょう。
- 就業規則への明文化
就業規則や社内規程に、ハラスメント行為の禁止規定と懲戒処分等の対処方針を明記します。例えば、「第○条(ハラスメントの禁止) 労働者は職場においていかなるハラスメントも行ってはならない。万一ハラスメント行為が確認された場合、懲戒処分の対象となる。」といった条項を整備します。
すでに規程がある場合も、今回の事案で浮き彫りになった課題(例えばグレーゾーン行為の定義不足等)があれば補足修正します。特にパワハラ防止法制化(中小企業への義務化は2022年4月~)に伴い、規程整備が不十分であれば早急に対応しましょう。
- 相談窓口の明示
社内のハラスメント相談窓口についても、就業規則または社内ガイドライン等で窓口部署・担当者や連絡方法を明示します。厚労省の指針では、事業主は相談窓口の設置と周知を求められています。就業規則に細かい連絡先まで書かない場合でも、社内掲示やハンドブックに「相談窓口:○○部人事担当・電話内線○○、外部相談窓口:○○社労士事務所TEL○○」等と具体的に示します。
社員が困ったときにどこに相談すればよいか一目で分かるように案内しておくことが大切です。窓口担当者が異動し、連絡先が変わった場合も更新を忘れずに。
- 社内通知・研修での周知
規程を改定したら、速やかに全社員に周知します。社内メールや掲示板での通知のほか、朝会や研修の場で趣旨を説明し、理解を促します。「ハラスメントを行った者には厳正に対処する」旨の会社方針も明言し、全員の認識を揃えましょう。
特に管理職には改定内容を詳しく説明し、現場で部下への指導に落とし込めるようにします。場合によっては被害者・加害者双方に今回の件を踏まえた再発防止策を直接説明し、「これを機に職場環境を改善していこう」という前向きなメッセージを伝えることも検討します(ただし個別事案の詳細は伏せ、一般論として伝える配慮は必要です)。
- 規程整備における専門家の活用
就業規則やハラスメント防止規程の作成・改定にあたっては、社労士等の専門家に相談することをおすすめします。法律改正への対応漏れを防ぎ、会社の実態に即したルール整備ができるからです。社内にノウハウがない場合は無理に自社だけで作成せず、社労士事務所に規程案のレビューや助言を依頼するとよいでしょう。
届出が必要な就業規則変更であれば、労基署への提出も社労士が代行可能です。せっかくの社内ルールも周知されなければ意味がないので、社員説明資料の作成や説明会運営についても必要ならサポートを受け、規程の内容が現場に浸透する工夫を凝らしてください。
以上の対応策を講じることで、ハラスメント発生時の適切な対応フローが確立され、社員が安心して働ける職場づくりにつながります。ハラスメント問題は早期発見・早期対応・再発防止が肝心です。万全の備えで組織を守り、健全な職場環境の維持に努めましょう。
ハラスメント対応に関して不安がある場合や専門的な支援が必要な場合は、社会保険労務士法人エリクスまでお気軽にお問い合わせください。企業のハラスメント防止策の構築から個別事案の対応まで、プロの視点でサポートいたします。
お問い合わせ先:社会保険労務士法人エリクス(TEL:080-6004-5475)
【参考リンク】
- 厚生労働省「職場におけるハラスメント対策マニュアル」 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf