【人事労務の最新動向】経営者が押さえておくべき注目トピックス
【人事労務の最新動向】経営者が押さえておくべき注目トピックス
[労務管理]
2026年03月05日
2026年に入り、企業の人事労務管理はいよいよ待ったなしの局面を迎えています。労働基準法をはじめとする各種労働関係法令の改正が続く中、労働基準監督署(以下「労基署」)による監督指導も年々厳しくなっており、「知らなかった」「まだ対応できていない」では通用しない状況になってきました。本記事では、経営者・人事労務担当者が今一度確認しておきたい5つの重要トピックスをまとめます。
トピック①:時間外労働・36協定の厳格化と是正勧告の増加
労働基準法(以下「労基法」)の改正によって導入された時間外労働の上限規制(月45時間・年360時間が原則、特別条項付き36協定でも年720時間が上限)は、すべての業種で適用されています。それでも労基署の監督指導や送検事例が増え続けているのが実態で、違反が後を絶たない状況は変わっていません。
実務上、特に見落とされがちなのが「36協定における過半数代表者の適正な選出」です。近年、選出手続きの不備を理由に是正勧告を受けるケースが目立って増えています。次の点を必ず確認してください。
- 管理監督者(課長職以上など、労基法上の「管理監督者」に該当する者)を過半数代表者に選出していないか
- 投票・挙手・持ち回り決議など、民主的な手続きを経て選出しているか
- 使用者側が一方的に指名・任命していないか
選出手続きに不備があると、36協定そのものが無効とみなされ、時間外労働のすべてが違法となりかねません。上限時間の遵守状況の確認とあわせて、選出手続きの記録もしっかり残しておくことが求められます。
トピック②:労働条件明示ルールの改正(2024年4月施行)の定着確認
2024年4月に施行された労働基準法施行規則等の改正により、労働条件の明示事項が拡充されました。施行から2年近くが経過した今も、対応が追いついていない企業は少なくありません。主なポイントは以下のとおりです。
- すべての労働者に対し、「就業場所・業務内容の変更の範囲」を労働契約締結時および契約更新時に明示することが義務付けられています
- 有期契約労働者に対しては、更新上限(通算契約期間・更新回数の上限)の有無と内容、および無期転換申込権が発生する旨を事前に説明することが必要です
既存の雇用契約書・労働条件通知書がこれらの改正に対応しているかを改めて確認し、書式が古いままであれば速やかに更新してください。パートタイム・アルバイト・有期雇用労働者を多く雇用する企業では、特に優先度の高い対応事項です。
トピック③:育児・介護休業法の改正(2025年4月施行)への対応状況の確認
育児・介護休業法(以下「育介法」)の改正が2025年4月に施行されて約1年が経ちます。2026年の今、自社の対応が実態として機能しているかを改めて点検する時期です。
(1)子の年齢に応じた柔軟な働き方の措置義務
3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者を対象に、所定外労働の免除、始業時刻の変更、テレワーク・在宅勤務、短時間勤務制度など、複数の選択肢の中から少なくとも2つ以上の措置を講じることが義務付けられています。規程に盛り込んだだけで実際の運用が伴っていないケースも見受けられるため、現場での周知状況も確認してください。
(2)育児休業取得状況の公表義務の対象拡大
育児休業の取得状況の公表義務は、従業員300人超の企業に加え、従業員100人超の企業にまで対象が広がっています。該当する企業は、公表内容の正確性と更新状況を改めて確認することをお勧めします。
トピック④:最低賃金の引き上げと同一労働同一賃金の再点検
2024年度の地域別最低賃金の全国加重平均は1,055円となり、その後も引き上げの流れが続いています。2026年度の改定動向も注視しながら、賃金体系が最低賃金を下回っていないかを定期的に確認することが必要です。パートタイム労働者・アルバイトを多く雇用する中小企業では、人件費への影響が直接的に出やすいため、早めのコスト試算と見直しが求められます。
また、最低賃金の引き上げに伴い、パート・アルバイト・有期雇用労働者と正社員との賃金格差(基本給・手当・賞与・退職金等)についても改めて見直しが必要です。短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート・有期雇用労働法」)が定める「不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金)」に違反している場合、訴訟リスクに直結する可能性があります。格差の合理的な根拠を整理・記録しておくことが重要です。
トピック⑤:メンタルヘルス・ハラスメント対策の実務強化
(1)ストレスチェック制度の義務対象拡大の動向
現在、常時50人以上の労働者を使用する事業場に義務付けられているストレスチェック制度について、50人未満の事業場への義務化が引き続き検討されています。まだ任意実施の段階にある事業場も、早めに体制を整えておくことが賢明です。
(2)ハラスメント相談窓口の実効性ある運用
パワーハラスメント防止措置の義務化(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律。以下「労働施策総合推進法」)は中小企業にも適用されていますが、相談窓口が形だけになっているケースは依然として多く見られます。担当者への研修実施、相談記録の保管、再発防止策の策定など、実際に機能する体制づくりが求められます。
(3)安全配慮義務違反リスクへの注意
過重労働やハラスメントが原因で労働者がメンタル不調に陥った場合、使用者は労働契約法(平成19年法律第128号)第5条に基づく安全配慮義務違反として損害賠償請求を受けるリスクがあります。日頃からの労働時間管理と職場環境の整備が、結果としてリスク回避につながります。
まとめ
2026年は、前年から続く複数の法改正・制度変更の定着が問われる年です。「規程は整えた」「一度対応した」で止まらず、実態として機能しているかを定期的に確認することが大切です。本記事で取り上げた5つのポイントを改めて整理します。
- 36協定の時間外労働上限の遵守と、過半数代表者の適正な選出手続きの確認
- 労働条件明示ルール改正への対応(雇用契約書・労働条件通知書の書式見直し)
- 育介法改正(2025年4月施行)に伴う就業規則・社内規程の整備と運用状況の点検
- 最低賃金引き上げへの対応と、同一労働同一賃金の観点からの待遇差の点検
- ストレスチェック・ハラスメント対策の実効性ある運用体制の構築
是正勧告や訴訟、社会的信用の低下といったリスクは、気づいたときには手遅れになっていることも少なくありません。定期的な労務監査と専門家への相談を通じて、労務管理体制を継続的に見直していくことをお勧めします。
参考:厚生労働省「労働基準関係法令に関する情報」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/index.html
参考:厚生労働省「育児・介護休業法について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
参考:厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
お困りごとがありましたら、社会保険労務士法人エリクスまでお気軽にお問い合わせください。
