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【送検事例】時間外労働の月平均80時間超えが招く法的リスク

【送検事例】時間外労働の月平均80時間超えが招く法的リスク

[労務管理]

2026年03月02日

「残業代はきちんと払っている」「36協定も締結している」——そう思っていても、時間外労働の実態が月平均80時間を超えていれば、労働基準監督署(以下、労基署)による送検につながる深刻なリスクがあります。2019年4月に施行された働き方改革関連法(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)により、時間外労働の上限規制が罰則付きで法定化されて以降、労基署の監督・捜査は一段と強化されています。企業名や経営者名が公表される送検事例は、採用・取引・社会的信用にも直結する経営リスクです。本記事では、月平均80時間超の時間外労働がなぜ送検につながるのか、そして企業が今すぐ取り組むべき実務対策を解説します。

時間外労働「月平均80時間超」が送検につながる背景

「過労死ライン」という言葉をご存じでしょうか。これは、脳・心臓疾患による過労死や精神障害による過労自殺の労災認定基準として厚生労働省が示した目安であり、発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合に、業務との関連性が強いと判断されます。

働き方改革関連法の施行により、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間と法定され、特別条項を設けた場合でも年720時間・単月100時間未満(休日労働含む)・複数月平均80時間以内(休日労働含む)という絶対的上限が設けられました。これらに違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象となります。

さらに、送検事例は厚生労働省や各都道府県労働局のウェブサイトで公表されるため、企業名・経営者名が社会に広く知られることになります。いわゆる「ブラック企業」のレッテルを貼られることで、採用活動や取引先との関係にも深刻な影響が生じる点を、経営者は強く認識しておく必要があります。

送検に至る典型的なパターン

送検事例を分析すると、いくつかの共通したパターンが浮かび上がります。

残業代を支払っているにもかかわらず送検されるケース:割増賃金の支払いは最低限の義務であり、法定上限時間を超えて労働させた事実そのものが違反となります。「払っているから大丈夫」という認識は誤りです。

タイムカードと実態が乖離している「隠れ残業」が発覚するケース:PCのログイン・ログオフ記録や入退室記録と打刻時間が一致しない場合、労基署の調査で実態が明らかになります。

36協定(時間外・休日労働に関する協定)の上限を超えて労働させていたケース:協定で定めた上限時間を恒常的に超過していた場合、協定の存在自体が免責事由にはなりません。

複数部署・複数労働者にわたる組織的・継続的な違反:単発ではなく、会社ぐるみで長期間にわたって違反が続いていた場合、悪質性が高いと判断され、送検に至りやすくなります。

36協定の締結と「過半数代表者の適正な選出」が不可欠な理由

36協定は、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合、労働者の過半数を代表する者(以下、過半数代表者)との書面による協定が必要です。ここで重大な落とし穴があります。

(1)管理監督者を代表者に選んではならない

労働基準法第41条に定める管理監督者(いわゆる管理職)は、労働時間規制の適用除外者です。そのような立場の人物が労働者代表を兼ねることは、制度の趣旨に反するとして認められません。「部長が代表者になっている」という状況は、36協定そのものを無効にしかねません。

(2)民主的な手続きを経ることが必須

過半数代表者は、投票・挙手・持ち回り決議など、労働者の意思が適切に反映される民主的な方法で選出しなければなりません。「会社が指名した」「上司が任命した」という形での選出は手続き上の瑕疵(かし)となります。

(3)最近の労基署調査では選出不備の指摘が増加

近年の労基署の調査では、36協定の内容だけでなく、過半数代表者の選出手続きの適正性まで詳しく確認されるケースが増えています。選出過程を記録した議事録や投票結果の書類を保存していない企業は、指摘を受けた際に反証できず、協定が無効と判断されるリスクがあります。

月平均80時間超が招く具体的な法的リスク

(1)刑事リスク

労働基準法違反として送検・起訴された場合、事業主個人だけでなく、法人も罰金刑の対象となる「両罰規定」が適用されます。法人に対しては最大1億円の罰金が科される場合もあり(労働基準法第121条)、経営への打撃は計り知れません。

(2)民事リスク

過労死や過労自殺が発生した場合、遺族から損害賠償請求を受ける可能性があります。過去の裁判例では、数千万円から1億円を超える高額賠償が認められた事例もあり、中小企業にとっては経営存続を脅かす事態になりかねません。

(3)行政リスク

労基署から是正勧告を受けた場合、改善が見られなければ使用停止命令に至ることもあります。また、労働関係の助成金を受給していた場合、不支給や返還を求められるリスクもあります。

(4)レピュテーションリスク

送検事実は公表されます。求職者や取引先がその情報を目にすることで、採用難・受注減少・融資審査への影響など、目に見えない形でビジネスへのダメージが蓄積されていきます。

企業が今すぐ取り組むべき実務上の対策

労働時間の客観的な把握:タイムカードだけでなく、PCログ・入退室記録・業務報告書など複数のデータを突合し、実態を正確に把握する体制を整えましょう。

36協定の上限時間の設定と遵守状況の定期チェック:協定で定めた上限時間を月次で確認し、超過傾向が見られる部署には早期に介入する仕組みを構築してください。

過半数代表者の適正な選出手続きの見直しと記録保存:選出方法・選出日時・参加者・結果を記録した書類を整備し、少なくとも協定の有効期間中は保存しておくことが重要です。

管理職・人事担当者への法令教育:「残業代を払えば問題ない」という誤解を組織全体から排除するため、定期的な研修を実施してください。

月80時間に近づいた段階でのアラート運用:月の途中で時間外労働が60時間を超えた労働者に対してアラートを発し、業務量の調整や応援体制の確保を早期に行うことが、送検リスクの低減につながります。

まとめ

月平均80時間超の時間外労働は、刑事・民事・行政・レピュテーションという四重の複合リスクを企業にもたらします。

36協定を締結しているだけでは不十分であり、過半数代表者が管理監督者以外から民主的な手続きで選出されていることが大前提です。選出手続きの不備は協定を無効にしかねないため、今すぐ自社の手続きを見直してください。

労働時間の客観的把握と早期是正の仕組みづくりが、経営リスク回避の核心です。

これらの対策は、専門家である社会保険労務士に相談することで、自社の実態に即した形で整備することが可能です。

参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21639.html

参考:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準」

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/2207252-1.pdf

参考:e-Gov法令検索「労働基準法」

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049

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