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【解雇・雇止め】日本硝子産業事件から学ぶ雇用終了の法的リスク

【解雇・雇止め】日本硝子産業事件から学ぶ雇用終了の法的リスク

[判例]

2026年02月27日

解雇・雇止めをめぐるトラブルは、大企業だけの問題ではありません。中小企業においても、従業員との雇用終了をめぐる紛争は増加傾向にあり、適切な手続きや理由の整備が不十分なまま対応した結果、多額の未払い賃金の支払いや地位確認訴訟に発展するケースが後を絶ちません。令和6年10月に静岡地方裁判所が言い渡した日本硝子産業事件の判決は、解雇・雇止めの手続き・理由の不備がいかに深刻な法的リスクをもたらすかを、改めて実務に問いかけるものとなっています。

事件の概要と背景

本件は、静岡地方裁判所が令和6年10月31日に判決を言い渡した事案です。使用者である日本硝子産業株式会社と、同社に雇用されていた労働者との間で、雇用終了の有効性をめぐって争われました。

  • 雇用形態は有期労働契約(契約社員)であり、複数回にわたって契約が更新されていた
  • 使用者側は、労働者の勤務態度や業務上の問題を理由として雇用終了(雇止め)を通告
  • 労働者側は雇止めの無効を主張し、労働契約上の地位確認と未払い賃金等の支払いを求めて提訴

このような紛争パターンは、製造業・サービス業を問わず中小企業でも十分に起こりうる典型例といえます。有期契約を繰り返し更新してきた従業員に対して、ある日突然雇止めを通告する——こうした対応が法的に問題となるケースは、全国の労働審判・訴訟でも数多く見られます。

裁判所の判断と判決のポイント

静岡地裁は、本件における雇止めの有効性について、「雇止め法理」(労働契約法第19条)の適用を検討したうえで、使用者側の対応に問題があると判断したとされています。

  • 使用者側の主張:労働者の勤務態度の悪化・業務上の不適切な行動が雇止めの正当な理由となる
  • 労働者側の主張:反復更新の実態から雇用継続への合理的な期待があり、雇止めは無効である

裁判所が注目したのは、契約更新の経緯や使用者側の言動、そして雇止めに至るまでの手続きの適否でした。

ここで押さえておきたい基本概念を整理します。

(1)解雇権濫用法理(労働契約法第16条)

期間の定めのない労働契約(正社員等)において、解雇は「客観的に合理的な理由」がなく、「社会通念上相当」と認められない場合には無効とされます。解雇が無効と判断された場合、使用者は労働者が就労できなかった期間の賃金を全額支払う義務を負う可能性があります。訴訟が長期化すれば、その分だけ未払い賃金の総額も膨らむため、経営への打撃は計り知れません。

(2)雇止め法理(労働契約法第19条)

有期労働契約の雇止めについても、実質的に無期契約と同視できる場合や、労働者に雇用継続への合理的な期待がある場合には、解雇権濫用法理が類推適用され、雇止めが無効となる場合があります。雇止めが無効とされた場合も同様に、契約満了日以降の賃金相当額の支払いを命じられるリスクがあります。

解雇・雇止めが無効となった場合の具体的リスク

「手続きさえ踏めば大丈夫」と考えている経営者・人事担当者は少なくありませんが、解雇・雇止めが無効と判断された場合の法的・経済的リスクは非常に大きいものです。主なリスクを以下に整理します。

(1)バックペイ(未払い賃金)の支払い義務

解雇・雇止めが無効とされた場合、使用者は労働者が就労できなかった期間(解雇日から判決確定日まで)の賃金を全額支払わなければなりません。訴訟が1年〜2年以上に及ぶケースでは、数百万円規模の支払いが生じることも珍しくありません。

(2)付加金の支払い命令

不当解雇が労働基準法に違反すると認められた場合、裁判所は未払い賃金と同額の「付加金」(労働基準法第114条)の支払いを命じることができます。つまり、実質的に2倍の金銭的負担を強いられる可能性があります。

(3)社会的信用の失墜

労働審判・訴訟の内容が従業員や取引先に知れ渡ることで、採用活動への悪影響や取引上の信頼失墜を招くリスクがあります。中小企業にとって、こうした無形の損失は長期的なダメージとなりかねません。

(4)労働基準監督署による調査・是正勧告

不当解雇に付随して、解雇予告手当の不払い(労働基準法第20条違反)や解雇理由証明書の不交付(同法第22条違反)が発覚した場合には、労働基準監督署から是正勧告を受けるだけでなく、悪質と判断されれば送検・罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となる場合があります。

解雇が有効と認められるための要件

解雇を有効とするためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  • 客観的に合理的な理由:能力不足、業務命令違反、経営上の必要性など、第三者が見ても納得できる具体的な事実が必要
  • 社会通念上の相当性:解雇という手段が状況に照らして適切であること(軽微な問題に対して即座に解雇するのは相当性を欠くと判断されやすい)

解雇の種類によって求められる要件の重みも異なります。

(1)普通解雇:能力不足や勤務態度の問題を理由とする場合、事前の注意・指導・改善機会の付与が不可欠です。これらのプロセスを書面で記録していない場合、裁判所で「指導の事実がない」と判断されるリスクが高まります。

(2)懲戒解雇:就業規則に定められた懲戒事由に該当することが前提であり、手続きの適正さも厳しく問われます。就業規則に根拠規定がない懲戒解雇は、それだけで無効と判断される可能性があります。

(3)整理解雇(いわゆるリストラ):①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの相当性という「整理解雇の4要件(4要素)」が判断基準となります。これらを一つでも欠けば、整理解雇全体が無効と判断されるリスクがあります。

本件では、雇止めに至るまでの指導・警告の記録が十分でなかった可能性があり、「手続きの適否」が法的評価に大きく影響したと解されます。問題行動があったとしても、それを書面で記録し、本人に改善を求めたプロセスがなければ、使用者側の主張は説得力を欠くことになります。

有期契約労働者の雇止めに潜むリスク

有期労働契約の雇止めは、正社員の解雇よりも「手軽にできる」と誤解されがちですが、実態は異なります。雇止め法理が適用される典型的なケースとして、以下が挙げられます。

  • 契約が5回・10回と反復更新されており、実質的に無期契約と変わらない状態になっている
  • 上司や経営者が「次も更新するから安心して」などと口頭で伝えていた
  • 更新拒絶の理由が曖昧で、労働者に十分な説明がされていない

また、実務上の重要な手続きとして、以下の点に注意が必要です。

(1)雇止めの予告:契約期間が1年を超える場合や、3回以上更新されている場合には、少なくとも契約満了の30日前に予告することが求められます(労働基準法施行規則第5条等)。この予告を怠った場合、手続き違反として法的評価に悪影響を及ぼします。

(2)理由の明示:労働者が雇止めの理由を求めた場合、使用者は遅滞なく書面で明示しなければなりません。理由の明示を怠ることは、後の訴訟において使用者側に著しく不利な事情として扱われる可能性があります。

本件でも、更新の経緯や使用者側の言動が「雇用継続への合理的な期待」の有無を左右する重要な事実として認定されたと考えられます。

中小企業が今すぐ取り組むべき実務対応

判決の内容を踏まえ、中小企業の経営者・人事労務担当者が今すぐ着手すべき実務対応を整理します。

(1)就業規則の整備

解雇事由・懲戒事由を具体的かつ網羅的に規定し、全従業員に周知徹底することが基本です。「周知」は単に書面を配布するだけでなく、就業規則を常時閲覧できる環境を整えることが求められます。就業規則の根拠規定がない懲戒解雇は無効となるリスクが高く、整備の優先度は非常に高いといえます。

(2)有期労働契約書・労働条件通知書の見直し

契約書には「更新の有無」「更新する場合の判断基準」を必ず明記してください。「自動更新」や「更新する旨の口頭約束」は後日の紛争原因となります。

(3)指導記録の作成・保管

問題行動のある従業員に対しては、日報・面談記録・注意書・始末書などを書面で残してください。口頭注意だけでは「指導した事実」の立証が困難になり、訴訟において使用者側が著しく不利な立場に置かれます。

(4)雇止め手順のチェックリスト化

  • 契約満了の少なくとも30日前に面談を実施する
  • 雇止めの理由を具体的に説明し、書面で通知する
  • 本人からの質問・異議には誠実に対応し、記録を残す

(5)専門家への早期相談

問題が顕在化してから相談するのでは遅い場合があります。訴訟や労働審判に発展してからでは、法的・経済的なダメージを最小化できる選択肢が大幅に狭まります。「この従業員への対応をどうすべきか」と感じた段階で、弁護士・社会保険労務士に相談することが最大のリスクヘッジとなります。

まとめ

  • 日本硝子産業事件(静岡地裁 令和6年10月31日判決)は、解雇・雇止めの手続き・理由の不備が法的リスクに直結することを改めて示した事案です
  • 解雇・雇止めが無効と判断された場合、バックペイ(未払い賃金)の全額支払い義務に加え、付加金(同額)の支払い命令が下される可能性があり、数百万円規模の経済的損失が生じるリスクがあります
  • 解雇予告手当の不払いや解雇理由証明書の不交付が発覚した場合、労働基準監督署による是正勧告・送検、さらに刑事罰(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となる場合があります
  • 解雇権濫用法理(労働契約法第16条)・雇止め法理(同法第19条)はいずれも労働者保護の観点から厳格に運用されており、使用者側の「合理的な理由があった」という主観的判断だけでは不十分です
  • 有期契約の反復更新は「実質的な無期契約」と判断されるリスクを生じさせるため、契約書・更新手続きの適正化が不可欠です
  • 問題が顕在化する前に、就業規則・労働契約書の整備と指導記録の蓄積を進めることが最大のリスクヘッジとなります
  • 個別事案への対応は、早期に専門家へ相談することが重要です

参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index.html

参考:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128

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