固定残業代は、もともと「残業が発生したときに、あらかじめ一定額を払っておく」仕組みです。
制度としては便利ですが、実際には「もう残業がほとんどないのに固定残業代が残っている」というケースも少なくありません。

■ 固定残業代を見直す意味

労働基準法36条は、「残業を認める仕組み」としてよく知られていますが、もともとの目的は“残業を減らしていく”ことにあります。
つまり、時間外労働をする場合には上限を決め、働きすぎを防ぐための枠組みなんです。

この考え方から見ても、固定残業代をなくしていくことは、法律の方向性に合った取り組みといえます。
働いた時間を正しく計算し、その分をきちんと支払う──そんなシンプルで誠実な仕組みを目指す流れです。

■ 移行期間の工夫：調整給という考え方

とはいえ、制度を切り替えるときには「給与が減ったように見える」こともあります。
そんなときは、移行期間中に**調整給（または移行手当）**を設ける方法があります。

調整給は、あくまで制度変更に伴う一時的な経過措置です。
支給の理由（たとえば「固定残業代の廃止に伴う経過手当」など）と、算定の根拠が明確であれば、
性質上は「割増賃金の計算に含めなくてもよい」と考えられます。

こうした工夫によって、総支給額が極端に下がることを防ぎながら、社員が安心して新しい仕組みに慣れていくことができます。

■ 会社と社員の信頼を育てるチャンスに

固定残業代をなくすことは、単に給与体系を変えるという話ではありません。
「社員の時間をきちんと扱う」という会社の姿勢を示すものでもあります。

時間を正確に見える化し、働いた分をしっかり支払う。
その積み重ねが、労務管理の透明性を高め、会社と社員の間に新しい信頼をつくっていくのです。

■ おわりに

固定残業代をなくしていくのは、少し手間のかかる取り組みです。
でも、その一歩を踏み出すことが「働き方の質を上げる」第一歩でもあります。

制度を見直すことは、過去を否定することではなく、未来に向けて整えていくこと。
時間の扱い方を見直すことは、会社の文化をもう一段深めるきっかけになるはずです。

固定残業代のことで悩んでいることがあるという経営者様は、ぜひ社会保険労務士法人エリクスまでお気軽にお問い合わせください。