有給・代休・振替休日の違いとトラブル防止のポイント
「有給と代休は同じ?」「振休と代休の違いがわからない」といった声は多くの職場で聞かれます。
有給休暇・代休・振替休日は名前が似ているため混同されやすいですが、法律上の位置づけや給与計算の扱いは大きく異なります。誤った運用はトラブルや法令違反につながる可能性もあります。
本記事では、これら3つの制度を整理し、正しく区別して運用するために押さえるべきポイントをご紹介します。
■制度の基本的な違い
年次有給休暇(有給)
法律上の権利:労働基準法第39条で定められています
付与条件:入社6か月後、出勤率80%以上で付与
取得理由:問われません(旅行・通院・私用など自由)
給与:全額支給
時効:未使用分は2年で消滅
有給休暇の取り扱い注意点
・労使協定を結び「計画的付与制度」を導入している場合を除き、会社が一方的に取得日を指定することはできません。
・未消化分の有給を会社が買い取って残数を減らすことは違法です(退職時や法定日数を超えた独自付与分など例外はあります)。
・取得理由を会社が尋ねたり、利用を拒否することはできません。
・事業運営に支障がある場合には「時季変更権」が認められていますが、これは日程変更に限られ、取得自体を拒否することはできません。
代休
性質:休日出勤の後に「休暇」を与える会社独自の制度
法律上の義務:なし(取得期限も法律で規定なし)
取得期限:就業規則などで会社が定める必要があります(例:出勤から2か月以内)
給与:代休を与えなくても、休日出勤の割増賃金は必ず支払う必要があります
代休取得日の賃金計算
代休を取った日は、法律上の有給休暇や法定休日ではなく、会社が任意で与える休暇にあたります。そのため、給与計算上は「欠勤扱い」として無給にするのが一般的です。
一方で、就業規則に「代休は有給とする」と定めれば、その日は給与を支給することも可能です。
いずれにしても、休日出勤をした際の割増賃金は必ず支払わなければならず、「代休を与えたから支払わない」という取り扱いは違法になります。
振替休日(振休)
性質:事前に休日と勤務日を入れ替える制度
給与:振替後の勤務日は通常勤務扱いとなり、割増賃金は不要です
重要事項:必ず「事前に」設定する必要があり、事後調整は不可です
振替休日の賃金計算
振替休日を設定した上で出勤した場合、その日は「所定労働日」となり、休日労働の割増(35%以上)は不要です。
ただし、1週間の労働時間が40時間を超える場合や、1年単位の変形労働時間制で定められた総労働時間を超える場合には、その超過分は「時間外労働」として扱われ、25%以上の割増賃金が必要になります。
振替を事後に設定した場合は無効となり、その日の出勤は休日出勤扱いとなって、35%以上の割増賃金が発生します。
■混乱しやすいポイント
・代休は事後対応、振休は事前設定
・有給は社員が自由に取得できますが、代休・振休は会社都合で発生します
・割増賃金の扱いが異なります
・有給は時効2年ですが、代休は会社ルール次第です
・振休の設定次第では、週40時間や変形労働時間制の枠を超えた場合に残業代が発生することがあります
■誤運用によるリスク
制度を混同したまま運用すると、次のようなトラブルにつながります。
・「休日出勤=代休で相殺」と誤解し、割増賃金を支払わなかった結果→未払い残業代請求
・有給取得を「代休で処理すればいい」と誤運用→労働基準監督署から是正勧告
・振休を事後で設定→制度として無効扱いになり、休日労働として割増賃金の支払いが必要
■トラブル防止のために
会社側の対応
・就業規則や給与規程に明記する
・代休の取得期限を設定する(出勤から2か月以内など)
・勤怠管理システムで申請区分を分ける
・振休による週40時間・変形労働時間制の総枠超過に注意し、残業代を正しく計算する
社員側の意識
・自社ルールを理解し、不明点は早めに確認する
・有給は自由に取得できる権利、代休・振休は会社ルールに基づく制度であることを区別する
・振休による残業の可能性を意識する
・社員への周知と教育
・管理職研修で「代休と振休の違い」を解説する
・社員向けに「勤怠システムの操作マニュアル」や「申請ガイド」を配布する
・Q&Aを用意し、誰でも理解できる形で周知する
■社労士に相談すべき場面
・就業規則に「代休・振休の区別」や「賃金の扱い」が明記されていない
・過去に「休日出勤=代休で相殺」と処理してきた
・社員から「有給を代休に変えてほしい」といった相談を受けた
こうした場合は、専門家に確認することがトラブル防止につながります。
■最後に
「有給・代休・振休」は名前が似ていますが、法的性質・運用ルール・給与計算の扱いは大きく異なります。
特に代休や振休については、賃金処理を誤ると未払い残業代のリスクにつながります。
有給休暇は法律で保障された労働者の権利であり、使用者が日程を操作したり、残数を買い取って調整したりすることは原則として認められていません。
制度を整理し、就業規則に明記し、社員と会社が同じ理解を持つことが健全な労務管理の第一歩です。
有給・代休・振休の運用は、就業規則・勤怠管理・給与計算と密接に関わるため、企業独自の制度設計が不可欠です。
社会保険労務士法人エリクスでは、企業の状況に合わせた就業規則の整備、勤怠管理体制の構築、労務トラブル予防まで幅広くサポートしています。
「自社のルールや計算方法に不安がある」「社員からの質問に明確に答えられない」と感じた際は、ぜひ専門家にご相談ください。