「130万円の壁」に対応した新助成制度~キャリアアップ助成金『短時間労働者労働時間延長支援コース』創設~
2025年7月1日、厚生労働省は「年収130万円の壁」によるパート・アルバイト等の働き控えに対応するため、キャリアアップ助成金に新たな支援策である『短時間労働者労働時間延長支援コース』を設けました。この新コースでは、社会保険の適用をきっかけに労働者の手取りが減らないよう配慮した企業の取組みを支援します。
◆制度の背景:「130万円の壁」とは?
扶養内で働く方の多くが気にする「年収の壁」。中でも「130万円の壁」は、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が必要となり、保険料負担による手取り減少を懸念して労働時間の延長をためらう要因になっています。こうした働き控えを解消し、就業促進と企業の安定的な人材確保につなげるため、国は事業主への支援を強化しました。
◆新設された『短時間労働者労働時間延長支援コース』とは?
【対象となる取組み(概要)】
• 週5時間以上の労働時間延長
• または週2時間以上5時間未満の延長+一定の基本給増加等の処遇改善
• 社会保険の適用前1か月~適用後2か月以内に上記措置を講じる必要あり
【支給対象となる労働者】
• 社会保険の適用を新たに受けた労働者
• 社会保険加入直前6か月以内に雇用された者は対象外
• 既に社会保険の加入要件を満たしていた者も対象外
【助成金額(1人あたり)】
取組みのタイミング 小規模企業(30人以下)/中小企業/大企業
社会保険適用時の取組み 50万円/40万円/30万円
社会保険適用2年目の取組み 25万円/20万円/15万円
※2年目の助成は、次のいずれかを実施する必要があります。
①週2時間以上の労働時間延長
②基本給を5%以上引き上げ
③昇給・賞与・退職金のいずれかの制度を新設
◆どれくらいの人件費を補填できるのか?
事例 ⇨ 週所定労働時間が26時間、時給1000円で勤務されている方の場合。
労働時間を4時間延長し、週所定労働時間を30時間、賃金5%アップした場合の1月(4週)の賃金負担増額と助成金で補填される人件費について、コース別にまとめます。
※1年目の取り組みにのみ焦点を当てています。
【社会保険適用時処遇改善コース】※助成額1人30万円(中小企業)
〈週26時間〉給与:1週26000円➜4週104000円 社会保険:加入なし
〈週30時間〉給与:1週30000円➜4週120000円 社会保険:5965円(事業主負担分)
〈賃金負担増額〉(120000円+5965円)-104000円=21965円増加
⇨1年で300000円÷21965円=約13.6ヶ月分の人件費が補填されます。
【短時間労働者労働時間延長支援コース】
※助成額1人50万円(常時労働者雇用が30人以下の小規模企業)
〈週26時間〉給与:1週26000円➜4週104000円 社会保険:加入なし
〈週30時間〉給与:1週31500円➜4週126000円 社会保険:6369円(事業主負担分)
〈賃金負担増額〉(126000+6369円)-104000円=28369円増加
⇨1年で500000円÷28369円=約17.6ヶ月分の人件費が補填されます。
◆利用方法と注意点
【利用手順】
事前に「キャリアアップ計画書」を作成・提出,
対象労働者に対し6か月以上継続して労働時間延長等を実施,
その後2か月以内に支給申請,
【切替も可能】
既存の「社会保険適用時処遇改善コース(106万円の壁対応)」の「労働時間延長メニュー」または「併用メニュー」に基づく労働時間延長などを進めた場合であっても、支給決定前であれば新コースに切り替えて申請が可能。
◆この制度の活用で得られる効果
• 社会保険加入による従業員の安心感・定着向上
• 企業の労務管理の安定化
• 手取り減少を抑えることで人材確保と長時間就労の促進が両立
◆制度はいつまで?
『短時間労働者労働時間延長支援コース』は、令和8年3月末までの時限措置となっています。
これを機に、貴社の働き方・処遇制度の見直しを進めてみてはいかがでしょうか?
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