雇用契約書と労働条件通知書の違いと見直しのポイントについて
【雇用契約書と労働条件通知書の違いと見直しのポイントについて】
雇用契約書と労働条件通知書は、いずれも労働条件を明確にするための重要な書類ですが、両者の法的性質や目的は異なります。しかし実務ではその違いを理解せず運用されるケースも多く、労使間の誤解やトラブルにつながっています。
本記事では両者の明確な違いを整理し、それぞれの運用上のポイントを詳しく解説します。
当法人としては、トラブルの未然防止や円滑な労使関係の構築のため、それぞれの書類を個別に整備・締結、交付することを推奨しています。
■ 雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?
【雇用契約書】
雇用契約書は、企業と従業員の間で結ばれる労働契約の内容を明確にし、双方がその内容に合意したことを確認するための文書です。
・労使双方が労働契約の内容について合意した証拠となる文書
・根拠法令:民法・労働契約法
・法的義務はないが、労使間の合意を明確にするため推奨される
・企業と従業員双方の署名・押印が一般的
・労働トラブル時に証拠として強い効力を持つ
【労働条件通知書】
一方、労働条件通知書は、労働基準法に基づき、使用者が労働者に対して労働条件を明示する義務を果たすための文書です。
・労働者への労働条件の情報提供を義務づけた文書
・根拠法令:労働基準法第15条第1項
・法律に基づく明示義務があり、違反時には行政指導や是正対象となる
・署名・押印は不要(交付のみで可)
・従業員への情報提供としての役割が強い
【労働条件通知書における「明示事項」】
労働条件通知書には、明示が義務付けられている項目があり、それぞれ「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」に分かれています。
◆ 絶対的明示事項(書面交付が必須)
次の項目は、必ず書面で明示しなければなりません。
・労働契約の期間(期間の定めの有無)
・就業の場所および従事すべき業務の内容
・始業および終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無
・休憩時間、休日、休暇
・賃金の決定・計算・支払方法、締切および支払の時期
・退職に関する事項(解雇事由を含む)
◆ 相対的明示事項(定めがある場合に明示が必要)
次の項目は、就業規則等で定めている場合に限り明示が必要です。
・昇給に関する事項
・退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払時期に関する事項
・臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
・労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
・安全・衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰および制裁に関する事項
・休職に関する事項
■ 書式を見直すべき理由
【法改正による追加項目の義務化】
2024年4月の労働基準法施行規則の改正により、以下の項目が新たに明示義務化されました:
・就業場所の変更の範囲
・業務内容の変更の範囲
・有期契約の場合の通算上限期間や更新回数
・無期転換申込機会や無期転換後の労働条件
これらの項目は、トラブル防止や説明責任の観点から、明確に書面で伝える必要があります。
【契約内容と実態の不一致】
実際の労働条件と文書上の記載が一致していないと、未払い残業代の請求や不当解雇の訴訟といった労務リスクが生じます。
【電子交付対応の必要性】
現在では、労働条件通知書を電子データで交付することも可能です。しかし、電子交付には労働者の事前同意や、データ形式・保存体制などへの配慮が求められます。
■ 実務でのチェックポイント
【法令遵守のチェック】
・2024年4月以降の法改正に対応した書式となっているか
・明示が義務付けられたすべての項目が記載されているか
【契約内容と実態の整合性】
・勤務条件(勤務日・時間・賃金など)が現実と一致しているか
・就業規則や賃金規程との整合がとれているか
【労働条件変更時の対応】
・労働条件の変更があった際、速やかに書面の再交付を行っているか
・有期契約の更新時に毎回内容の見直しがされているか
【文書の管理・保管体制】
・契約書・通知書を適切に保管し、必要時に確認できる体制があるか
・電子交付の場合、同意書や保存ルールが整備されているか
【従業員への説明責任】
・契約内容について従業員が理解しやすい説明がなされているか
・不明瞭な表現や誤解を招く表記がないか
雇用契約書と労働条件通知書は、形式的に作成すればよいというものではありません。
企業と従業員の信頼関係を築き、安定した雇用を実現するためには、それぞれの書類を実態に即して個別に整備・締結・交付することが不可欠です。
適切な文書整備と運用体制の構築は、労務トラブルを未然に防ぐ最善の方法です。
雇用契約書・労働条件通知書に関する見直しや運用に不安がある場合は、社会保険労務士法人エリクスまでお気軽にお問い合わせください。